コホーティク彗星観望記


 1973年3月7日、ドイツのハンブルグ天文台のコホーティク博士は、シュミットカメラによる写真掃天中にひとつの彗星を発見した。さっそく天文学者によって軌道が計算されたが、それによると、太陽に次第に接近して今年の1月頃明るくなり、肉眼でも見えるようになるということであった。
 発見当時、この彗星は木星の公転軌道の近くを運行しており、こんな遠くにある彗星を発見し、太陽に近づく1年も前から、明るくなることを予測できたのは、珍しいことであった。
 彗星の中でも大きなものは、いずれも星空に雄大な尾を見せてくれるが、それを「たけぼうき」のようにみて、昔から「ほうき星」と呼んでいる。有名なものには、ハレー彗星や、池谷・関彗星などがあるが、今度のコホーティク彗星はこれらのほうき星をしのぐ今世紀最大の彗星になるであろうとマスコミに騒がれた。
 私も、明るいほうき星にお目にかかるのは、久しぶりなので、西空に雄大な尾をなびかせるコホーティク彗星を夢見て、ニコンの双眼鏡を購入したのである。
 はじめてコホーティク彗星とお会いしたのは、同彗星が太陽に次第に接近してきた12月中旬のことで、夜明け前の寒さを身に感じながら、短い尾のはえた姿を、双眼鏡でとらえたのであった。
 その後、彗星は太陽に最も近づいた後、少しずつ遠ざかり、今度は夕方の西空に姿を現すので、年が明けた1月2日の夕方、私は防寒服に身を固め双眼鏡とカメラを両肩に(本人はこの格好に満足している)西の地平線の良く見える畑のそばに陣取った。日が暮れて、まだ夕焼けの残っている西の空には、宵の明星として有名な金星と木星が明るい光を放っていたが、夢にまで見たほうき星の姿はどこにも見当たらなかった。
 彗星は1月14日頃最も見やすくなったので、天文台でも一般公開したが、うわさどおりに明るくならず、ガッカリした人が多かったようだ。しかし、双眼鏡で見た、青みがかった彗星の姿はすばらしく、上司のM課長いわく、「彗星ツーのは飛んでいるのかと思ったら、ちゃんと尾がメーンダナー」。
 コホーティク彗星は、非常に長い年月を経て、再び太陽に接近してくると何かの雑誌に書いてあったが、もしそうだとしたら、その頃私たちの住んでいるこの地球は、いったいどのようになっているのだろうか。


(「ミニマガジン水戸」に20代前半(1974年頃)に連載していた星に関するエッセイ「星雑記−その3−」です。原文のまま)