耳から脳が出た ???


 これは、あるプラネタリウムに在職していた間に体験した、うそのような本当の話です。プラネタリウムの現場に33年近く携わってきた中でも、もっとも慌てた出来事のひとつでした。このように文章にしてみると、きわめて不自然ですが、頭の中が相当混乱していたのでしょう。

 ある日のことです。その日はちょうど、小学校の団体が学習投影を見学に来ていました。投影のほうは、何事もなくスムーズにいっていたようでしたが、ちょうどその時間に会議をしていた私のところに、スタッフの一人があわてて走ってきました。

 スタッフ 「大変です。小学校の児童のひとりが、耳からノウが出て、いま控え室で先生と休んでいます。」
私 「えーーー!!!」 思わず絶句しました。 耳からノウ(脳??)が出るなんて、よほどの大事件だ。これは、いよいよ、私のプラネタリウム人生始まって以来、とうとう死者を出すという最悪の事態になるかもしれない・・・。

 それより、至急に救急車を呼ばなくては・・・。 しかし、何で、プラネタリウムを見ているだけで、耳からノウ(脳??)が出てくるんだ??? どうやったら耳からノウ(脳??)が出るんだ??? 何で先生と一緒に控え室で休んでいられるんだ??? 私の頭は正直混乱していました。
私は、大急ぎで先生のもとに走りました。

私 「先生、お話はいま伺いました。大変なことになってしまいましたね。いま、急いで救急車を呼びますから!!!」

先生 「ああ、どうもご迷惑をおかけします。でも、しばらく横になっていれば大丈夫ですから・・・。」

私 「??? ・・・でも、耳からノウ(脳??)が出ているんですよね。動いたら危険ですよ。大急ぎで手配しましょう!!!」

先生 「そこまで大げさにしなくても大丈夫ですよ。ほら、こどももこのとおり、横になっていれば大丈夫だと言っています。」

私 「??? でも、ノウ(脳??)が出ているんですよね。横になっていても危ないのではないですか!!! ノウ(脳??)がソファーについたら危険ですよ!!! 絶対に手で触ってはいけません!!!」

先生 「いいえ、しばらく横になっていれば、おさまると思います。しばらくしたら、家に帰らせます。」

私 ・・・??? そうか、耳からノウ(脳??)が出ても、話をすることはできるんだ???・・・ しかし、どうやって耳からノウ(脳??)が出たまま、家に帰るんだ?? 手で押さえて帰るのかな???

わけがわからなくなっていました。

そのとき、スタッフの一人が、

「ああ、(ノウ)というのは、耳が化膿してきて膿(つまりウミ)が出てきてしまったということなのですね。」

私「ああーーー!! そうですか。私はまた耳から脳がでたというから、本当の脳みそが出てきたのかと思い、とても気が動転してしまいました。」

先生 「どうやったら、耳から脳が出るのですか???」

私 「はーーー! いや、私も話を聞いたときから、そのことを疑問に思っていたのですが、あわててしまって、多分、プラネタリウムを見ている最中に、何かのきっかけで興奮して、脳が出てしまったのだろう???などと思ってしまったのです。焦りました。」

先生 「大変ご心配をおかけしました。もう大丈夫ですので、しばらくしたら、帰ります。」

私 「こちらこそ、はやとちりでお騒がせしました。」

 私に報告に来たスタッフの出身地では、ウミのことを膿(のう)と言うのだそうですが、私の出身地では、そのような呼び方をしないために、このような展開となってしまました。今では笑い話ですが、プラネタリウムに勤務していて、一番慌てた出来事として、いまだに記憶に残っています。


2006年3月14日記述