夕焼けの演出



 場内案内が終了すると、いよいよプラネタリウムの実際の投影がスタートします。投影のスタイルは、その館の状況によりさまざまです。生解説のみで投影を行う館もあれば、オート番組(※)を最初に持ってくる館もあります。最近では、生解説とオート番組を組み合わせるパターンの館が多くなってきました。オート番組を最初に持ってくる場合は、夕焼けの演出を、オート番組の中で行うように工夫しましょう。なぜなら、プラネタリウムにおいて、この夕焼けから星が出てくるシーンはプラネタリウムにおいて最も大切な場面であるからです。

 ただし、いずれの場合においてもプラネタリウムの解説において、夕焼けの場面の演出を生解説で上手に行えるようになることは、解説者のスキルとして欠かせないものです。しっかりと練習して、観客にとって印象深い演出ができるようにしましょう。
(※オート番組とは、あらかじめ録音したナレーションやBGMを流して、それにあわせてプラネタリウム投影機や、その他、映像を映し出すさまざまな投影機が全自動で作動して演出を行う番組を言います。)

夕焼けの演出はプラネタリウムの生命
 プラネタリウムにおいて、西の空が赤い夕焼けに染まり、次第に星が出てくるシーンは、観客にとって最も印象深いものです。そのときの感動をいつまでも覚えていて、大人になってから科学の道に進む人も多いようです。この場面は、どんなにハードウエアの進歩が進んでも、オート番組の演出が複雑になったとしても、プラネタリウムの原点であり、おろそかにすべきではないと考えます。
 場内案内のあとにオート番組を持ってくる場合においても、オート番組でなくてはできないようなダイナミックで印象的な夕焼けの演出を行うように心がけましょう。生解説で夕焼けの演出を行うときには、多くの場合、地上の景色は、いつも同じスカイラインを使用します。しかし、オート番組における夕焼けの演出には自由度があります。たとえば、それはアメリカの高山の頂上付近にある天文台の夕焼けであったり、古代の恐竜が歩き回る草原の夕焼けであったり、あるいは、未知の惑星において、ふたつの太陽が沈む夕焼けであるかも知れません。
 オート番組における夕焼けの演出については、あとで詳しく述べることとし、ここでは生解説における夕焼けの演出を述べることにします。

演出に必要な解説とは
 夕焼けの演出における解説は、ある程度情感を込める必要があります。しかし、それは大げさなものであってはなりません。その時々の観客の層によっては、そのあとジョークをたっぷり盛り込む解説になるかも知れません。しかし、この夕焼けの演出に関してジョークなどを入れる必要はないでしょう。BGMの音量や、話の間の取り方、言葉の使い方など、解説において最も神経を集中する場面です。この場面の演出を通り一遍にさらっと行ってしまうことがないように注意しましょう。
 この場面で必要な解説とは、あくまでも場面を盛り上げるための解説であり、主役は解説者ではなく、プラネタリウム投影機を中心としたハードウエアによる、夕焼けから星が出てくるまでのシーンそのものです。

言葉は短く端的に
 前述したように、夕焼けの演出はプラネタリウム投影機を中心としたハードウエアが主役です。またBGMも重要な役割を果たします。この場面で、解説者が言葉を多用するのはかえって逆効果になるでしょう。BGMのメロディーラインにおいて、最も盛り上がる場面などで言葉を入れるのは良くありません。BGMと一体になるような語りで、なおかつ夕焼け、薄暮、星が出てくるシーンのタイミングを見ながら、端的な言葉で短い説明を情感を込めて入れていくようにしましょう。
 その言葉の使い方一つで、夕焼けの演出がさらに効果的なものにもなり、逆に効果を妨げるものにもなりますので、神経を使う場面です。季節、季節に応じていくつかの表現のパターンを準備しておき、なおかつその時々の天候などの話題にも触れ、ライブ的な感覚を入れながら演出を行うようにすればよいでしょう。太陽が沈むときには、その地域における日没の時間なども伝えるようにしましょう。

解説で季節感の表現や、夕暮れ時の情景を盛り上げる
 たとえば、春の初め頃であれば、春一番を話題として取り上げ、次のような解説を行うと良いでしょう。

 立春を過ぎてからはじめて吹く強い南風を春一番といいますが、この春一番が吹く頃になりますと、
 春ももうすぐそこまでといった感じがします。
 春一番が吹いた翌日には、再び冬型の気圧配置となり寒さが戻ることも多いようです。
 さあ、今日の太陽が地平線を真っ赤に染めながら、静かに沈んでいきます。
 今日の○○(ここにプラネタリウム館のある場所の地名を入れる)の日の入りの時刻は、○○時○○分です。

といった具合です。このようなフレーズをBGMに絡めて入れていきます。文章が短いように感じられるかもしれませんが、観客は映像のほうに集中していますし、BGMにかぶせますので、このくらいの量で十分です。


 初夏の頃であれば、

 立春から数えて88日目を八十八夜といいます。この頃になるとさわやかな日が続き、
 若葉の緑も美しく、夏がもうすぐそこまでといった感じがします。
 昔から八十八夜の別れ霜ということわざがあり、この頃を過ぎると霜も降りなくなり、
 どんな植物の種をまいても失敗することがないと伝えられています。
 さあ、今日の太陽が地平線のかなたに静かに沈んでいきます。
 今日の○○の日の入りの時刻は、○○時○○分です。
 今夜は星空が見られるでしょうか。

 などといった感じです。


 このほかにも季節を感じさせるような話のパターを準備しておき、それをもとに、その日の情景を多少アドリブで入れながら解説を進めます。このような場面においては、不特定多数を相手にしているといっても、情感にうったえる意味で大人向けの話で差し支えないと思います。
 太陽が沈むと、その日の状況によっては三日月であったり、上弦の月であったりします。また夕焼けの空に金星や木星が輝いている時期もあるでしょう。これらに関しては、短い言葉で適切に解説を加えていきます。
 たとえば、


 太陽が沈んでしまうと、空はきれいな夕焼けに染まります。
 赤く染まった空に輝く一番星は、宵の明星として有名な金星です。


 あるいは、

 太陽が沈むと、真っ赤に染まった空には、三日月が見えています。

 などといった具合です。ここで「西の空」と言わないのには、理由があります。ほとんどの方は太陽が沈む方角は西であることを認識していますが、方位については、後ほど北極星を使って、方位を知る場面で詳しく説明するためです。
 月や惑星の説明は、星空の解説の場面で改めてすることが多いのですが、夕焼けの演出の場面においても、今見えている天体が何であるかということに触れておくことは大切なことです。

演出に必要な所要時間

 夕焼けの演出に必要な時間は、3分から3分30秒程度です。これより短いと、夕焼けの演出は淡々としたものになり、印象がやや薄れます。また、これより長すぎると、すでに星が出ているのに解説はどうなっているのだろう、などと観客がいらいらしてきます。使用するBGMの長さは曲の種類によって、さまざまですが、夕焼けのムードにあった曲に関しては、大体3分30秒程度で終了するものが多いようです。イントロを少し聞かせて、話を入れていくと、曲の終わり頃に、ちょうど星の解説に入れるタイミングになります。
 プラネタリウムの星空を止める位置は、時間として21時くらいがふさわしいでしょう。この時刻であれば、どのような季節においても天文薄明が終了しています。館によっては、それより早い時刻の位置で停止する館もあります。しかし、その場合、夏は薄明の終了時刻が20時30分近くになるため、夏はそれより、遅い時刻でなくてはなりません。また逆に冬は18時頃には薄明が終わります。したがって、季節に応じて、星空を止めるを時刻をこまめに変更する必要があります。この場合、どの時点で時刻を変更したかを他の解説者に伝えることを忘れると、星座の位置が、前回解説したときとは東西方向において前後するため、解説者が戸惑うことになり、あまり良くありませんので、気をつけましょう。
 太陽を投影し、その動きを開始する位置としては、午後2時か3時頃の位置から開始することになります。こちらは時刻に関しては、あまり気にする必要はありません。地平線からどのくらいの高度にあるかに気をつけます。夏至の頃であれば、午後3時をスタート位置とし、冬至の頃であれば午後2時をスタート位置とします。この位置よりスタートし21時の位置で星空を固定します。これを3分から3分30秒で演出のすべてを行うと、太陽や星の日周運動、解説のスピード、BGMなどがちょうど良いスピードとなり、観客にとって印象深い夕焼けが演出できるでしょう。
 太陽の位置が地平線に近すぎると、日没があっさりしすぎます。また逆に太陽の位置が地平線から高すぎると、地平線に近づくまでに間延びしてしまい良くありません。地平線から程よい高さで始めるところが夕焼けの演出を成功させるコツです。


BGMの使い方

 
夕焼けの演出のときに使用するBGMは、観客が入場するときに使用するBGMとは目的が異なります。このときに流れるBGMは、流れていれば良いというものではなく、比較的大きな音量で再生します。しかし、それは観客にとって快適な大きな音量であり、耳障りな大音量であってはなりません。BGMの中でも、この場面で使用するBGMは、その選曲と使い方には最も神経を使います。使用する曲目により、その情感は大きく印象が変わります。
 プラネタリウム館によっても異なりますが、クラッシックを中心に選曲する場合や、ピアノ曲を中心に選曲する場合など、さまざまです。解説者の好みにより選曲されるケースが多いようですが、この場合は、テレビの番組などに注意し、夕焼けのシーンなどのバックに流れている曲などを注意していると良いでしょう。いずれの場合においても、テンポのゆったりした曲目が良いでしょう。ボーカルは入っていてもかまいませんが、それに解説を加えるのは難しいものがあります。よく使用される曲としては、サンサーンスの「白鳥」やシューマンの「トロイメライ」などが、初心者には無難ではないでしょうか。プラネタリウムの夕焼けの演出ではよく使用される曲です。これらの曲が、投影機によって表現される赤い夕焼けのバックに流れるだけでムードが盛り上がるでしょう。夕焼けの演出に慣れてきたら、他の曲にも挑戦すれば良いでしょう。
 場内案内が終了するかしないかのタイミングで、夕焼け用のBGMをスタートします。観客の入場時に使用するBGMに比べると、音量はやや大きめです。そこで、イントロの部分を聞かせます。20秒くらい経過したら曲目のメロディーラインに沿って、解説をかぶせていきます。このとき、解説の声がBGMの音量に負けないように、BGMの音量を少し絞りましょう。ただし極端に音量を変化することは良くありません。どちらも良く聞こえる状態で演出を進めていきます。やがて、空が真っ赤に染まって太陽が沈む場面では、解説は必要ありません。明るい星が輝き始めるまでは、月や惑星が近くに見えている場合を除いては、BGMのみでもかまいません。月や惑星がある場合には、前述したような内容を話し、詳しくは、星空を固定してから改めてそれらの天体の話をすればよいでしょう。
 やがて、空には満天の星空が広がります。星空を固定したら、BGMは曲の終わり頃になっているはずで、音量も徐々に小さくなってきますので、そのまま流した状態とし、曲が終わる直前には星空の解説に入っていきます。