場内案内


  ここで述べる場内案内とは、プラネタリウム館の中に観客を誘導する場内案内ではありません。プラネタリウムの投影を開始するにあたって、プラネタリウム館の内部の非常口やトイレなどの案内を解説者が行うものです。

場内案内の目的
  観客の中には、初めてプラネタリウム館に来る方もたくさんいます。特にプラネタリウム館のような丸い形状をした空間の部屋は、トイレがどこにあるか、また非常口がどのようになっているかなど、わかりにくいものです。このような方にプラネタリウム館の内部がどのようなっているかを的確に説明する必要があります。
  また、プラネタリウム館の室内は、たとえば、展示室や待合室などに比較すると、照明がやや暗いのが常です。特に時間に間に合わせるため、屋外からいきなり入ってきた観客は、その明るさにまだ順応できていません。そこで、この場内案内の間に観客の目を慣らすための時間を確保する必要があるのです。そして何より大切なことは、場内案内の間に観客が心を落ち着かせ、日常とは異なる時間をプラネタリウム館において持つことができるように誘うことが大切です。

場内案内に必要な項目
  場内案内を行うときに大切なことは、プラネタリウム館の内部がどのようになっているかを端的に短い言葉でしかもわかりやすく伝えることです。最低限必要な項目としては、次のようなものがあります。

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 その回の投影のタイトルと、どのような内容で何分くらいの所要時間か
  2 投影終了後の出口はどこか
  3 トイレはどこにあるか。また、投影が始まって暗くなってトイレに行きたくなった場合はどうするか
    これは傾斜型プラネタリウムの場合には、床が階段状になっているため、特に注意する必要があります

  4 飲食、喫煙、携帯電話の使用、フラッシュ撮影の禁止などについての説明
  5 火災、地震が発生した場合の非常口の案内について
  6 その他、プラネタリウム館のイベント等の案内など

場内案内の最適な所要時間
  場内案内の内容は上記のようなものです。ともすれば、これをしてはいけない、あれをしてはいけないといったような硬い内容になりがちですが、それを的確な説明でなおかつ柔らかい言葉で適切な間を取りながら、滑らかに行うことにより、上記の「場内案内の目的」を達成します。これらの内容を盛り込むと場内案内だけでもかなりの長さになってしまいがちですが、できれば3分程度に収めるのが最適です。短くても長くても、その目的は達成できません。長すぎると聞いている観客のほうがいらいらしてきますので、気をつけましょう。

BGMの扱い
 観客がプラネタリウム館へ入場するときにBGMを使用するかどうかは、その回の投影内容によって異なります。たとえば学習投影や幼児向け投影で団体が入場するときにはBGMはなくても良いでしょう。一般投影の場合は、BGMをかけている場合が多いようです。この場合のBGMとは、あくまでもプラネタリウム館内の雰囲気作りに使用するものです。BGMの音量については特に気を使いましょう。大きくても小さくてもだめです。気がついたらBGMがかかっていたと思えるくらいの音量が最適でしょう。

, プラネタリウムの投影は平日と土曜、日曜では投影時間が異なる場合が多いようです。その館の収容能力にもよりますが、投影開始の15分くらい前に開場するのが一般的です。したがってこの時間までに、ハードウエアはスタンバイ状態に入っていなくてはなりません。BGMはこの状態で流しておきます。

 投影開始の約3分前から場内案内を始めるわけですが、この時点でBGMは止めたほうが良いでしょう。BGMを止めることにより、観客にはいよいよプラネタリウムの投影が始まることを伝えるわけです。この場面で、それまでざわついていた場内が多少静かになります。その静かになる瞬間を見極めて、すかさず場内案内を始めましょう。場内案内のときにもBGMを流す解説者もいます。しかし、どちらかといえば、この方法においては、観客は、解説者が場内案内を始めても、静かになる気配があまり感じられない場合があります。観客の側から見ても、いつの間にか解説者が話を始めたといった印象なのではないでしょうか。

 場内案内で使用するBGMと、あとに述べる夕焼けの演出に用いるBGMはまったく意味が異なります。場内案内で使用するBGMは、曲の種類にあまりこだわることはないでしょう。しかし、プラネタリウムの持つ独特の雰囲気を考えると、ロック系の曲など、激しい曲は避けたほうが無難でしょう。

ドーム照明、非常灯の使い方
 場内案内を行うときのドーム照明、非常灯の使い方はBGMとともに、とても重要です。観客が入場するときのドーム照明はできれば、最大限に明るいほうが良いでしょう。前述したように、時間ぎりぎりに入場してくる観客の中には、外からいきなりプラネタリウム館の内部に入ってくる方もいるからです。そのようなケースにおいて、ドームの照明が最大限の明るさであっても、観客はその明るさにまだ順応できていません。中はかなり暗く感じるはずです。しかもそこは初めて足を踏み入れる場所かもしれません。プラネタリウム館のスタッフは、毎日その内部を行ったりきたりしているため、椅子の配列から機械の位置まですべて頭の中に入っています。しかし、観客は、そこを歩くのに手探りの状態になります。観客の安全を確保するためにも、ドーム照明は観客の入場時は、最大限の明るさでなくてはなりません。これは、床が階段状になっている傾斜型ドームの場合には特に注意しましょう。
  非常灯は、その時点では当然点灯していなくてはなりません。もし、非常灯のひとつでも切れていたり点滅していたりしたら、それはすぐに交換しましょう。足下灯がある場合も同じです。

  投影開始の約3分前になったら、場内案内を始めます。このときまずBGMを停止します。次に非常灯も一度消灯しましょう。ドーム照明はやや暗くしてもかまいませんが、前述したとおり、直前に入場してくる観客を配慮してぎりぎりまで、明るくしておきます。BGMを止めることと、非常灯を一時的に消灯することで、観客はいよいよプラネタリウムの投影が始まるという意識を持ちます。このため、今までまわりの方と会話をしている場合でもこの場面で会話をやめ、場内が自然と静かになるのです。その瞬間を見計らって場内案内を始めるのです。
  場内案内において、出口の説明や、非常の場合の避難の説明などが入りますが、このときに再び、出口灯や非常灯を点灯し、観客にその場所を印象づけることが大切です。

トレーニング
 解説の初心者にとって場内案内の練習はとても大切です。これから解説を行っていく上において、すべての出発点となるでしょう。まずは、前述したような内容を配慮し、原稿を記述してみましょう。400字詰め原稿用紙の上5行くらいに、線を引き、その下に話す内容を記述します。1枚を1分と想定して、3枚分の原稿を記述します。
  このようにして記述した原稿は、表現に間違いがないかどう、適切に記述されているかどうか、観客にとってわかりにくい言葉を使用していないかなど、いつくかの視点でチェックします。原稿が完成したら、まずはそれを繰り返し声を出して呼んでみましょう。たとえば、事務所などで声を出して読むのは最初は恥ずかしいものです。スタッフから離れて、大きな声を出しても業務に支障が出ないような場所を練習場所として確保しましょう。声を出すときは、腹式呼吸で行います。はっきりと聞き取れる声で、適度なスピードで、間を取りながら練習します。
 最初は、ところどころで噛んでしまうことでしょう。しかし何度も練習しているうちに滑らかに話ができるようになります。こうして、説明をすべてマスターしたなら、今度は、実際の解説台で練習してみましょう。プラネタリウムの機械を立ち上げる必要はありませんが、音響システムと非常灯、ドーム照明などは活用します。マイクの音量を調整したら、マイクを通して練習します。このとき、ドーム照明と非常灯、出口灯なども操作します。できればストップウォッチを手元において、適切なスピードにおいて、3分プラスマイナス10秒程度に収まるようにします。もし、どうしても3分程度に収まらなければ、原稿のほうを再度見直し、言葉を追加するか、もしくは削除するかします。
  こうして何度も練習を繰り返し、滑らかに説明ができて、なおかつドーム照明等が操作できるようになれば、次のステップに進むことにします。

場内案内終了時にどのような状態になっていれば良いか
  場内案内を終了すると、いよいよプラネタリウムの投影を始めます。それは、オート番組であったり、あるいは引き続き、夕焼けの演出から星が出てくるシーンにつないでいくなど、さまざまです。しかし、どのようなパターンであっても大切なことは、場内案内が終わった瞬間は、観客が水を打ったように静かになっていることが大切です。
  観客に向かって、騒がないでくださいとお願いするのは簡単なことです。しかし、それは最悪の場合にとっておきましょう。それでなくても、あれは禁止、これは禁止と説明しているわけですから、駄目押しのように静かに見てくださいというのは、あまり良くありません。あくまでも場内案内の説明のプロセスの中で観客が静かな状態になるには、どのような説明がよいのかを工夫してみましょう。
  場内案内を終了して、「では投影を始めます。」といったときに、場内が満席であってもシーンと静まり返っていれば、次のシーケンスに入っていくときの効果は絶大なものとなるでしょう。